宇佐美 まこと 著
86歳の益恵、80歳のアイ、77歳の富士子の3人は、二十数年来の友人で、お互いの家を訪れたり、俳句を読んだり、仲良く過ごしてきた。
しかし、益恵の認知症の症状が、少しづつ進行してきて、話が噛み合わなくなってきていた。
益恵の夫の三千雄から、アイ、富士子の二人に、折り入って頼みたいことがあると呼び出される。
益恵のケアのことと思って、訪ねた二人に、三千雄が頼んだのは、益恵を連れて旅に出てもらえないかということだった。
益恵は、最近「カヨちゃん」という名前を口にするようになった。三千雄は、益恵が、アイや富士子にも見せていないつかえを心の奥に持っているのではないかと思ったのだ。
そして、益恵がかつて、過ごした大津市、松山市、そして、長崎県國先島を益恵と一緒に訪ねて欲しいということだ。旅をすることによって、益恵が自分なりに答えを見出すだろうと。
アイと富士子は荷が重いとも思ったが、三人で、旅に出られるのは最後だろうと引き受け、旅に出る。
本書は、三人が、それぞれの土地で益恵の知り合いを訪ね、時代を遡りつつ、話を聞くストーリーと、益恵が幼い時に、満州で、終戦を迎え、悲惨な環境を生き抜き、日本にたどり着くまでのストーリーが、交互に描かれる。
益恵の心のつかえは、取り除かれるのだろうか？
この旅の結末がどうなるのか、最後まで、引き込まれるストーリーであった。
また、戦争の悲惨さと戦後の混乱を描いた作品でもあった。
令和3年1月20日 初版第1刷発行
令和3年2月25日 第2刷発行
発行所 祥伝社
ISBN978-4-396-63603-6
C0093 \1700E