高瀬 乃一 著
主人公のおせんは、梅鉢屋という貸本屋を営んでいる。
貸本屋といっても、定まった店を出しているわけではなく、風呂敷で包んだ高荷を背負って、客先を訪れる。
また、書物問屋、地本問屋や書店から本を仕入れたり、借りたりして、貸本を準備する。また、自分で、元本を写本することもある。
梅鉢屋は、本だけでなく、錦絵も扱う。
本書では、5篇の中編物語が収められている。
江戸時代、書物や錦絵などは、奉行所の統制を受けており、時には、版元、戯作者、絵師、彫師などが処罰を受けたり、版板を処分されたりした。
第一話は、かつて、絵を描いていた人を巡る話。
第二話は、自分の親のことを物語の題材とされ、恨みに思った人が板木を盗む話。
第三話は、人目を憚る容姿の女将の絵と亡くなった主人の話を題材にした話。
第四話は、若旦那の一目惚れした女性が、難題の書物を条件に出した話。
第五話は、主人に火付けを命令されたお針の娘を助ける話。
おせんが、地道であるが、人情を持って、事件を解決する。
江戸の庶民の生活と出版、貸本の仕組みが、分かる物語である。
2022年11月30日 第1刷発行
発行所 株式会社 文藝春秋
ISBN978-4-16-391627-9
C0093 \1800E