山口 勇子 原作
沼田 曜一 語り文
四国 五郎 絵
広島のある横丁に小さなお地蔵さんが立っていた。
笑った顔をしていたので笑い地蔵と呼ばれていた。
真っ青に晴れあがった空に、飛行機が現れ、広島の真ん中あたりに、爆弾を落とした。
太陽が落ちてきたとしか言いようのない光景であった。
お地蔵さんも爆風に飛ばされ、砂に埋まり、笑った顔だけが地面にのぞいていた。
やがて、やけただれ、ちぎれた服を僅かにつけた女の子が近づいてきた。
お地蔵さんのところまで来て、歩けなくなり、うつ伏せに倒れた。
女の子は、お地蔵さんの顔を見つけ、「かあちゃん、水が飲みたいよう」と繰り返す。
笑っていたお地蔵さんの顔が少しずつ変わり、仁王のような顔になった。
「・・・みず・・・、み・・・」女の子の声が消えそうになる。
その時、地蔵の目にいっぱい涙が溢れてきた。
女の子の口に流れ入り、喉を鳴らして、飲み続ける。
女の子はお地蔵さんの顔を見てかすかに笑った、そして、動かなくなった。
食いしばった地蔵の顔は、揺れて、崩れ落ち、一面に散らばった。
原爆の惨さを描いた絵本である。
1979年11月 初版発行
2019年12月 第75刷発行
発行所 株式会社 金の星社
ISBN4-323-00237-8
C8793 \1200E